JEML代表に聞く「これからのモノづくり教育」

先日、2030年より中学の情報の授業が大きく変わる、という記事を公開しました。(こちらをご覧ください)
本日はこの情報教育の変革について、教育現場からの声をご紹介します。
インタビューをさせていただいたのは、一般社団法人ジャパン・エデュメイカーズラボ(JEML)の代表理事、鎗田謙一さんです。
JEMLは、子どもたちが自ら考え、創造し、成長できる環境をつくるために立ち上げられた組織で、子どもたちや小中高の先生方へ、
最新のSTEAM教育手法を取り入れたワークショップを行っています。
JEMLのウェブサイトはこちらです。

Q1:2030年度から中学校に「新・技術分野(仮称)」が導入される予定ですが、この動きについてどうお考えですか?

A1:
とても心強い一歩だと感じています。ただ、私たちは「日本のモノづくりを救うカギは、小学校段階からのSTEAM教育にある」と考えています。
今の日本の現状を見ると、ロボット掃除機は中国製が主流、電気自動車の分野でもアメリカや中国の企業が存在感を増しています。一方で、かつて日本が生み出した「ウォークマン」「アクオス」「プリウス」のような世界を驚かせる製品は、最近なかなか見られません。
これは企業の努力不足では決してなく、そうした製品を生み出す“人材のすそ野”が育ちにくい環境になっていることの表れだと私は感じています。
だからこそ、早い段階から「つくる力」や「工夫する喜び」を子どもたちに届ける必要があるのです。

Q2:学校現場では、技術や情報教育は専門の先生が担当することが多いですが、それについてはどうお考えですか?

A2:
担任の先生自身が、“日曜大工”の感覚で子どもたちと一緒にモノづくりに関わることが、実は最も効果的だと思っています。
たとえば、「micro:bit(マイクロビット)」という小さなマイコンボードを使えば、光センサーやLEDを活用して、「暗くなったら自動で点灯する常夜灯」をつくることができます。それをトイレ前の廊下に置く──なんていうことも、簡単に実現できます。
こういう体験は、特別な知識がなくても取り組めますし、「技術教育」ではなく「日常の生活改善の工夫」としてモノづくりに触れるきっかけになるんです。
私自身は国語科出身の教員ですが、今ではAIや、子ども向けの簡単なエッジデバイス(センサーやモーターなどを組み合わせた小型の電子機器)を活用して、いろんなガジェットづくりを楽しんでいます。
理系・文系を問わず、創造に関わる時代がもう始まっていると感じています。

鎗田代表開発のリモコンカー。2つのmicro:bitが使われています。

Q3:2030年度からの制度を本当に機能させるために、今なにが必要だとお考えですか?

A3:
制度そのものは非常に意欲的で期待しています。ただ、現場の先生方がとにかく忙しい。これが最大のボトルネックです。
せっかく素晴らしい方針があっても、教員研修が十分に行われなければ、「絵に描いた餅」になってしまいます。

だからこそ、1時間半程度で完結できるような、実用的で手軽な研修制度を全国規模で整備することが急務です。
「忙しい先生でも、無理なく実践できる」ことが、今後の情報教育の成否を分けると私は見ています。

STEAM教育は、特別な場所や人にだけ許されたものではありません。
日々の授業の中で、担任の先生が子どもたちと一緒に“つくってみる”経験を積み重ねていく──そこに、日本のモノづくりの未来があると思っています。

プログラミング講座の様子
プログラミング講座の様子

プログラミング講座の様子

モノづくりは情報技術ではなく「日常の生活改善の工夫」である、という言葉が印象に残りました。教科の枠を超えて、みんながものづくりに関わる時代が始まっているのですね。
JEMLのような外部組織の力を借りながら、情報の授業が充実したものになりますように(清水)